発達障害(自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)など)は、生まれつきみられる脳の働き方の違いによって、行動面や情緒面に特徴がある状態です。もし自分にその傾向がるかもしれない、と感じたら、どのような方法で調べたらいいのでしょうか。そして、どのように日常の困りごとに対応していけばいいのでしょうか。また、その具体的なプロセスについてまとめてみました。
もし自分に発達障害の傾向があると感じたら、チェックリストなどと照らし合わせてみましょう。そして、それらのせいで自分が日常でどのくらい困っているか考えてみましょう。発達障害は身体などの「病気」とは異なる、もって生まれた「特性」のようなものです。(ですから、「障害」という名前を使わず「自閉スぺクラム症」という名前に替わりましたが、まだまだ一般的ではありません)いずれにしてもこれらの「特性」そのものに害悪があるわけではなく、多くの人が作り上げた社会やシステム、文化やルールにこれらの特性を持っている人は馴染みにくかったり苦労をするということです。
もしあなたがリストのたくさんの項目に当てはまったとしても、あなた自身がなんの苦しみも困りごとも抱えていないのであれば、何もする必要はありません。幸せのかたちや生き方は人それぞれであり、それを周りに合わせる必要はないからです。そして、周りの人に「名前(診断)」をつけてもらう必要もありません。
しかし、これらの傾向を抱える人の中には、日常で困難を抱える人も多いでしょう。そんな中、医師から診断をしてもらったり、はっきりと自分のカテゴリーを知ることでスッキリすることがあります。そしてその診断を元に専門家のサポートを受けたり、症状緩和の投薬を試してみることができるかもしれません。
医療機関や学校、福祉において治療やサポートを受けるため、発達障害かどうかを医師に診断してもらうことができます。発達障害を診断することができるのは精神科専門の医師のみです。精神科や心療内科の医師であっても、専門性が違う場合は診断をしないことがありますので、ホームページや電話をして確認してみるといいでしょう。
精神科を受診するとまずお医者さんと問診(話をしたり質問をされたりしてどのような症状があるか、どのような困りごとがあるかを聞き取る)があります。機関によっては心理テストを受けることもあるかもしれません。発達障害は血液検査や脳波の検査などではっきりわかるものではありませんので、患者さんの実際の経験をもとに慎重に判断する必要があります。
診断や治療を受ける際、多くの医療機関が心理テストを基準として採用しています。それらは必ずしも必要なわけではありませんが、診断をするために医師がどのような心理テストを採用しているのか、またそれはどうやったら受けることができるのかを聞いてみてください。時としてその病院では心理テストを実施していないこともあります。そういう場合はお勧めの受検機関を聞いてみてください。当オフィスでも心理テストをいくつか実施しており、多くの医療機関で診断のために求められるウェクスラーの知能検査やCAARSやAQなどの質問紙の受検が可能です。 心理テストについて詳しくみてみる
医師からの医療的診断は必要ないが、自分自身の傾向を知るため心理テストを受検する方法もあります。心理テストを受けると心理の専門家がきちんと分析、フィードバックをし、今後の有効な対応のアイデアなども説明してくれますから、そのあとで医療機関の受診を検討するのもいいかもしれません。
問診や心理テストの結果、発達障害の診断結果となった場合、ではその次は何をすればいいのでしょうか。残念ながら発達障害を根本的に治療する薬はありません。先述しましたが、病気ではありませんので、根治という概念もないわけです。精神科のすべての薬は治療をするものではなく「症状を緩和する」対症療法であると考えて良いでしょう。しかし、眠れない、集中できない、不安が高いなどのさまざまな症状はQOL(生活の質)を著しく下げてしまいますから、それらの症状緩和ができれば、投薬治療は非常に有効であるといえます。ご自身のニーズをよく考え、医師と相談してどのような投薬が最適か決めていきましょう。
また、発達障害の患者さんをたくさん診察している医師と相談することで、さまざまなアイデアをもらえたり、安心感を得られることもあるでしょう。診断を受けたら必ず投薬治療をしないといけないと考えず、専門家の意見を参考に自分で困りごとを解決していくという方法もあります。
医師と相談する方法のほかに、じっくりと自分の特徴を知ったり、心理教育で学びを深めたり、心理検査やペアレント・トレーニングをしたりすることで、得意なところや苦手なところを理解する一つの方法として、専門家の指導のもとでカウンセリングやトレーニングをすることが挙げられます。それらを通じて、職場、家庭、保育園、幼稚園、学校などの環境を調整しながら、強みや自分らしさを発揮する方法を一緒に考えていくことで、日常生活の困り事を軽減できるかもしれません。ご自身やご家族の発達障害の症状でお困りの方、診断への不安を抱いていらっしゃる方の中には、カウンセリングやトレーニングを受けるることで自分や周囲の人の理解が深まったり、必要な制度を利用できるようになる方もいます。
国立特別支援教育相互研究所の統計によると、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する児童生徒数は、平成19年度以降、毎年、約6,000人ずつ増加しており、平成26年度において、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する児童生徒数の特別支援学級に在籍する総児童生徒数に対して占める割合は、約44%です(http://cpedd.nise.go.jp/horei/tokei)。
しかし、残念ながらこの世の中のシステムや制度は発達障害傾向のある方々に不便にできている(時間厳守、集団行動重視、など)ことが多く、何とか現実と折り合いをつけてやっていかないといけない現状を抱える方が多くいらっしゃいます。このページでは医療や心理の領域でのサポートについてまとめてみましたが、さまざままなサポートをうまく利用して、皆様の抱える困りごとがひとつでも軽くなることを切に願っています。
文責:湯浅紋(臨床心理士・公認心理師・心理学博士)